日本では、主に現役ダンサーの方や引退された方がバレエの先生として指導したり、教室を開いているイメージがありますよね?プロのキャリアを持った方々が指導している場合が多いとしても、日本ではバレエの先生になるために、何か特別な条件や資格はありません。しかし、フランスでは資格所持者のみに、ダンス指導が許可されています。
では、なぜバレエの生まれの国フランスでは国家資格制度が存在するのか。2019年より実際に現地で教育プログラムに参加し、資格取得後、現在コンセルヴァトワールでクラシックバレエ教師として働く中で、当初よりこのシステムへの理解が深まった気がします。実体験を踏まえながら、丁寧に解説していきます。
フランスにはダンス教師に国家資格制度がある3つの理由
・教師が一定の基準を満たした指導能力を有すること
・安全で衛生的な環境でレッスンが行われることを、生徒とその家族に対して国家が保障すること
+「ダンス教師」という職の社会的地位を確立する
1989年7月10日施行の政令により、フランス国内でダンス(クラシックバレエ、ジャズ、コンテンポラリーダンス)を指導するには、国家資格(DE : Diplom d’Etat de professuer de danse)を取得することが義務付けられました。
(志願者が何らかの関連資格を有する場合、大学やコンセルヴァトワールでの成績状況などにより、免除措置もあります)
・この政令に基づき、文化省の管轄下、国立ダンスセンター (CND: Centre National de la Danse)などをはじめとし、フランス国内各地の指定機関において、ディプロム取得のための教育プログラムが組まれています。最低500時間のカリキュラムをこなし、最終試験を持って資格取得となります。
→簡単な過程ではありませんが、国が学ぶ機会を提供することで、職業訓練を充実させ、資格の存在が教師の質を保証する役割を持っています
・ダンス指導は常に身体的な危険を伴うものであるため、資格取得後、自分の教室を開くことになった際も、環境基準をクリアした場所でのみ、生徒たちを受け入れ、レッスンをすることが許されています。
つまり、教師自身の質・教養だけでなく、レッスンに適した環境の提供も同じく義務だということです。
+日本では、教室を持たず、ダンス教師という職だけで食べて行くのは中々難しいように感じますが、資格の義務化により、「ダンス教師」という職の社会的地位を確立するという役割も担っています。
実際、国の学校コンセルヴァトワールに就くと、(就職後、正規職員となるにはコンクールをパスする必要がありますが)公務員として働くことになります。
参考文献
資格取得手順
・EAT
・3 Unités d’Enseignement Théorique
・Unité d’Enseignement Pédagogique
(・CA )
EAT
ダンスを教える者として、本人の最低限の技術レベルを測るための試験です。
・ヴァリエーション2つ(指定、創作)
・即興演技
・面接
この試験をパスして初めて、教育センターに入学でき、カリキュラムを受講することができます。
通常、毎年春にフランス全国3カ所で実施されています。
詳しくはこちらの記事に書いています。
https://faible-parfum.com/diplomdetat-eat-inscription/
https://faible-parfum.com/diplomdetat-eat/
3UV
教育カリキュラム第1ステージでは、教養を身につけます(200時間)
・解剖学
・歴史
・音楽
試験内容は、各教科でスタイルが異なりますが、大体が口頭・実技になります
詳しくはこちら
3科目一気に受験することも、数年をかけてひとつずつ受験することも可能です。
Unité d’Enseignement Pédagogique
第2ステップとして、より実践的な教育学を学びます。学校によっては、日本でいう教育実習期間を設けるところもあります。(最低400時間)
・Eveil/ Initiation (4から8歳までの子供、ダンスのジャンルを問わず基礎能力を身に付ける段階)
・Progression Technique (クラシック・コンテ・ジャズに分かれ、小学生から高校生まで、それぞれどのような指導を行って行けば良いのか学びます)
試験は、3つのセクションに分かれ、「Initiation, Peda, 面接」という構成です。
実際に面接官の前でレッスンを実演し、その内容等について質疑応答があります。
詳しくはこちら
一時帰国のたびに痛感しています
教師になるための教育は絶対必要です
毎夏、日本に一時帰国した際に、何とか怠けまいとオープンクラスを受けるように心がけています。年々、学習年を重ねるごとに、フランスと日本でのレッスンの違いが少しずつ自分の中でクリアになってきたのと同時に、教師のための教育の重要性を身にしみて感じました。
良いのか悪いのか、レッスン中恐れ多くも、私の脳の半分が勝手にレッスン内容等の分析(「この先生は何の目的を持ってこのアンシェヌマンを組んだのだろう」、「いや、その部分難しいんだから重点的に最初に説明しとかないと、ほらやっぱり音かけて壊滅的な出来で終わっちゃた…」)をし始めて、ふと我に返って戸惑った時が何度あったか…
理由
・身体についての知識を持たずに指導することは、生徒の生身を預かり指導する立場としてあまりにも無責任であり、危険すぎる行為だから
・生徒の年齢や成長に沿った指導・レッスン構成を考えられる力が必要だから
・バレエの正しいかたちを知るだけでなく、音楽性やその歴史についても理解した上で成り立つものだから
・経験だけで指導するのは恐ろしい、プロダンサーが必ずしも教え上手とは限らない。
・教師ではなく生徒ファーストの考えを持つべきだから
具体例
・身体についての十分な理解と知識を持たず、無理な指導を信じて怪我をし、バレエを続けられなくなった人たちを自分の周りでたくさん見てきた
・ただ闇雲に、正確さを考慮せず、カタチ上できたかできてないかだけで判断して指導しなかったため、後々生徒の身体が成長してから変な癖を治さなければいけなくなり、その長年の蓄積を正すのにさらに時間と労力を費やす
・そのexerciceに対して、適切でない音楽(リズム・曲調・テンポ)を使うことで、本来踊りの相乗効果となるはずが曲が妨げとなって、踊る側が本来の力を出せない、下手をすると怪我をする(実際に怪我しました):音楽と踊りは二つで一つ
・根拠や理由なしに、その先生の経験・感覚だけで説明されても、その人と同じ体・同じ条件下ではないから、生徒側は曖昧な理解のままで終わってしまう→間違ったやり方で身につける→体に負担がかかり、怪我のリスクor無駄な筋肉の消耗、体型のネガティブな変化
・本来、生徒の反応を見てレッスンを進めるべきであるが、教師本人の都合で、やりたいものをやる、という教師ファースト的な意識で、ただアンシェヌマン数をこなすだけのレッスンになっていることが少なくなく、実際ついて行けていない生徒が複数人いるのに、調整せずそのまま続行する、と言う状況を聞いたり、目の当たりにすることが多い。
現状日本に同様のシステムはないけれど。
・日本ではそんな機会も機関もない
・実際忙しすぎて改めて勉強する時間なんてない
→まず、疑いの目を持って現状を見つめ直すことだけでも、多少なりともレッスンの質は変わってくるものだと思います。
簡単なもので言うと、
・生徒ファーストの視点を持つように心がけてみる(生徒の反応を観察して、それに対して教師が応えていくことは教育の中で最も重要なことの一つだと先生方が口をそろえて耳にタコができるほど唱えていました)
・その音楽は本当に内容に適しているかを気に掛けてみる
・ついつい自分本位(自分の身体の条件前提、感覚、経験の話)になっていないか気をつけてみる
・何のためにこのアンシェヌマンを組んでいるのか、内容の目的やそのレッスンでの目標を明確にしてみる
以上、フランスにはなぜ国家資格制度があるのか、またダンス教師になるための教育の必要性について、ざっと解説しました。
4年間中で学んだ事は他にもたくさんありますが、年数を重ねるにつれて、教師のための教育は絶対必要だと確信しました。私自身も、まだ資格取得したばかりの新米ですので、学校で学んだことをベースに、常に学び続ける姿勢は絶やさず、教師としての経験を積み重ねたいと思っています。今はまだ、新米のただの戯言に過ぎませんが、いつか、全く同じ形ではないにしても、日本にも教師のための教育に携わりたいと思っています。
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